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仙台高等裁判所 昭和26年(ナ)22号 判決

原告 吉田美一 外四名

被告 青森県選挙管理委員会

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、昭和二十六年四月二十三日執行の青森市議会議員選挙の効力に関し、同年十月五日附で被告のした「訴願人等の請求を棄却する旨の裁決を取消す。右青森市議会議員の選挙を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めその請求の原因として、原告等は、昭和二十六年四月二十三日施行の青森市議会議員選挙の際立候補したものであるが、他の八名の者とともに、同年四月三十日青森市選挙管理委員会に対し右選挙の効力に関する異議申立をしたが、同年五月十八日棄却せられ翌十九日その決定書の交付を受けたので更に同月二十八日被告委員会に対し訴願したが、これまた同年十月五日訴願人等の請求を棄却する旨裁決せられ、同月六日該裁決書の交付を受けた。しかしながら右選挙は左記理由により無効であるから被告委員会の裁決も取消さるべきものである。即ち、

青森市においては、昭和二十六年四月二十三日行われた市議会議員選挙につき即日市内十開票区とも開票を開始し、そのうち第六開票区では開票場所である長島小学校において、開票管理者小山内常雄が開票立会人小笠原忠蔵、大平運造、三浦賢一、高坂柾市、木村忠次郎、三国正太郎、坂本友太郎、須藤茂、小田切茂美、一戸福次郎の十名立会の下に開票し、翌二十四日午前五時頃投票の点検を了し、開票録を作成しこれに開票管理者並に立会人全員署名し、投票を有効、無効に区別して封筒に入れ、これまた全員の印鑑を以つて封印して開票を終了し、開票所を閉鎖して一同散会したのであつた。そして右選挙係員(青森市吏員であるが氏名不詳)は間もなく右開票の結果を選挙長間山長一郎に報告するため右投票人封筒及び開票に関する書類を携行して、同日開かれた選挙会の会場である青森市議会議事堂の選挙長の許に赴く途中、候補者三上惣之進等と密議し、同人等の請を容れ所定の開票場所でない或場所(但しその場所がどこであつたか原告等にはわからない)において、秘かに右投票入封筒の封緘を破毀して投票を取り出し、各候補者の得票を彼此移動しその結果に基き縦に投票録中の有効投票欄に「五、二二五」と記載されてあつたのを「五、二四三」と、無効投票欄に「一三五」と記載されてあつたのを「一四四」と改ざんし、よつて右変更した開票の結果を選挙長に報告した。勿論右開票結果の変動に当つては、開票立会人を招集して立会の機会を与えることなく、僅に前記三上候補者の届出に係る立会人一戸福次郎及び須藤茂、小田切茂美の三名を呼び集め表面を糊塗したのである。

然るに被告委員会は、前記開票終了後封印を破毀して投票を取り出したことが違法であると認めながら、選挙の結果に影響なきものとして原告等の訴願を容れなかつたのであるが、右封印破毀の際各候補者の得票が移動せられたことは一点の疑のないところであり、かかる移動が公示せられた正規の開票場所以外において、告示せられた日時外に所定の十名の立会人に立会う機会を与えることなく、少数者間に秘密裡に行われたこと自体が投票の抜き取り不正投票の混入、投票の改ざん等選挙の公正を害する事実の存在を疑わせるに十分であるから、選挙の結果に影響を及ぼすおそれあるものといわなければならない。と述べ、被告の主張事実中第六開票所で開票された再調査及び投票録記載の修正につき、立会人十名全部に招集手続をしたとの点並に立会人小田切茂美、須藤茂、一戸福次郎の三名が投票再調査に立会つたとの点は争う。右三名は開票録の記載を修正する間近に立会つたに過ぎない、と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。との判決を求め、答弁として、原告等主張の事実中、原告等が昭和二十六年四月二十三日施行の青森市議会議員選挙に立候補したものであること、原告等が他八名の者とともに同月三十日青森市選挙管理委員会に対し右選挙の効力に関する異議申立をし、同年五月十八日棄却され、翌十九日その決定書の交付を受けたので、同月二十八日被告委員会に訴願したが、これまた同年十月五日棄却され、翌六日その裁決書が交付せられたこと、右選挙につき即日青森市内十開票区で開票が開始せられ、そのうち第六開票区においては、開票場所である長島小学校で開票管理者小山内常雄が原告等主張の開票立会人十名立会の下に開票し、翌二十四日午前五時頃投票の点検を了し、開票録を作成してこれに右管理者、立会人全員署名し、投票を有効、無効に区別して封筒に入れ、これまた全員の印鑑を以つて封印して開票を終了し、開票所を閉鎖したこと、右小山内常雄等が、右投票入封筒、開票録並に開票に関する書類を選挙長間山長一郎に送付する前に、封筒内の投票を取り出して再調査し、その結果に基き開票録を修正したこと、は認めるが、その他の事実は争う。右投票の再調査をしたのは、第六開票区の開票管理者小山内常雄が、開票の結果を選挙長間山長一郎に報告する直前において、開票録中に計数違があることを発見したので投票の再調査する必要を認め直ちに、前記開票立会人十名に対し出席するよう招集の手続をしたのであつたが、各立会人とも前夜からの開票立会人としての任務に甚しく疲労していたため、そのうちの須藤茂、小田切茂美、一戸福次郎の三名のみ出席し、その立会の下に青森市会議事堂内において、投票入封筒の封印を破毀して投票を取り出し投票を再調査の上、その結果に基き選挙開票録中、開票の内訳欄の有効投票欄に「五、二二五」と記載しあつたのを「五、二四三」と修正したのである。その無効投票欄の「一四四」は当初からのものでそのとき修正したものではない。なお右投票の再調査及び開票録の修正を青森市会議事堂でしたのは、第六開票区の開票場所が長島小学校であつて、前述の如く開票が二十三日夜から翌二十四日の早朝に亘つて行われたので、その後引続き右投票再調査を行うときは、同小学校の授業に差支えを生ずることとなるため近くの市会議事堂に移転して行つたものである。

以上の事実は、選挙の規定に違反する点あるを免れないとしてもそれは選挙の結果に影響を及ぼすおそれがあるものではないから、原告等の本訴請求は失当である。と述べた。(立証省略)

三、理  由

昭和二十六年四月二十三日行われた青森市議会議員選挙の際原告等がいづれも立候補したものであること、同月三十日原告等が他の八名のものとともに、青森市選挙管理委員会に右選挙の効力に関する異議の申立をしたが、同年五月十八日棄却され、翌十九日その決定書の交付を受けたので、同月二十八日更に被告委員会に訴願したが、これまた同年十月五日棄却され、翌六日その裁決書の交付を受けたこと、右選挙の開票が即日青森市内十開票区において開始せられ、そのうち第六開票区では開票場所である長島小学校において、開票管理者小山内常雄が開票立会人小笠原忠蔵、大平運蔵、三浦賢一、高坂柾市、木村忠次郎、三国正太郎、坂本友太郎須藤茂、小田切茂美、一戸福次郎の十名立会の下に開票し、翌二十四日午前五時頃投票の点検を了し、開票録を作成して右管理者並に立会人全員がこれに署名し、また投票を有効、無効に区別して封筒に入れ、これまた全員の印鑑を以つて封印して開票を終了し、一旦開票所を閉鎖して一同散会したこと、その直後右開票の結果を選挙長間山長一郎に報告する前に前記封印した投票入封筒の封緘を破毀し、在中の投票を取出して投票の再調査をしたこと、は当事者間に争がない。

原告等代理人は、右再調査は青森市役所吏員で本選挙係員の或者が候補者三上惣之進等と密議した上、同人等の請を容れて開票立会人に立会の機会を与えることなく秘かに行つたもので、その際投票の抜き取り、不正投票の混入、投票の改ざん等をなしその結果に基き縦に開票録をも改ざんした旨主張するので審按するに成立に争のない甲第一号証、証人小山内常雄の証言によつて真正に成立したものと認める乙第一号証の各記載、証人須藤茂、小田切茂美、一戸福次郎、小山内常雄、藤林寿、鉄谷吉治、世永義の各証言、及び青森地方裁判所の証拠保全に基く昭和二十六年十月二十六日検証の結果を綜合するに、

一、本件選挙の第六開票区の開票管理人小山内常雄は、開票終了の直後、即ち昭和二十六年四月二十四日午前七時過頃その結果を選挙長に報告するため、前記封筒入投票、開票録、その他開票に関する書類を携行して青森市選挙管理委員会に赴き係員に右書類を内示したところ、係員から開票録記載の有効投票数と無効投票数との合計数が総投票数と一致しないことを指摘されたので、右小山内常雄は、その誤りを発見するため投票の再調査を決意し、係りの者に既に大部分帰宅した開票係員及び開票立会人の招集その他投票再調査の準備を命じ、同日午前八時過ぎ頃から青森市会議事堂内において、開票立会人須藤茂、小田切茂雄、一戸福次郎の三名及び係員等十数名立会の下に投票の再調査をしたものであること。

二、開票立会人に対しては、その大部分の者(十名中七、八名)に役場吏員を派して出席を求めたのであつたが未だ帰宅しない者が多く前記三名が出席したのみであつたこと、

三、投票の再調査を青森市会議事堂内で行つたのは、正規の開票場所である長島小学校は時間的に生徒の授業を開始する時刻であつたので、授業の妨げとなることを考慮したためであること。

四、投票の再調査は、先づ開票管理者小山内常雄から、前記開票立会人開票係員十数名の者に、投票の計数に相違しているところがあるから再調査する旨告げた上、その面前で投票入封筒の封印を破毀して在中の投票を取り出し、投票全部について調査したところ、候補者吉田美一の得票とされていた分の中に候補者三上惣之進の得票百票が混入していたため、吉田の得票は百七十四票、三上の得票は三百九十五票であり、なお候補者平沢鉄男の得票が二十票あることが判明したので、その結果に基き青森市議会議員選挙候補者別得票数表(乙第一号証)中、十八番吉田美一の得票数二七四を一七四と、二十四番三上惣之進の得票数二九七を三九五と、その小計欄の一、三三三を一、三三一と、八十三番平沢鉄男の得票数は〇とのみ記載されてあつたものを、その左側に2の一字を加えて二〇と、その小計欄の九七〇を九九〇と、有効投票の総計欄の五、二二五を五、二四三とまた開票録(甲第一号証)中、投票総数欄の五、二二五を五、三八七と、有効投票欄の五、二二五を五、二四三と各修正し、再び投票を有効、無効に区別して封筒に入れ、開票管理者が前記開票立会人三名とともに封印して一同散会したものであること、

五、右投票録中、無効投票欄に一三五と記載した上に一四四と記載したのは、最初の開票の際一四四と記載すべきを誤つて一三五と記載したので、訂正の意味で一三五の上に一四四と記載したものであり、また同欄外に一四四と記載し、これを横線二本を以つて抹消したのも、最初の開票のとき、無効投票数を誤つて欄外に記載したため、それを抹消したものであつて、右再調査の折記載したものでないこと、

以上の事実が認められ、原告等の全立証によるも右認定を動かし得ない。

右認定事実に徴すると、第六開票所における再調査前の開票録の記載は有効投票数と無効投票数との合計が投票総数に合致しないことが一見明瞭であつて、これに気附いた開票管理者が投票再調査の必要を認めこれを実行したことは、必ずしも責めるべき措置とはいえない。ただ告示された開票所以外の場所で、しかも開票立会人十名中僅に三名(法定の最小限の立会人数)の立会を得ただけで再調査を実施し、関係立会人全員の署名捺印ある開票録を修正したことについては、手続上聊か慎重を欠くものがあつたとせざるを得ない。しかし前認定のような手続の下に行われた再調査の措置が選挙の規定に違反するものとしても、そのこと自体によつて直ちに原告等主張のような不正行為の介在を推測し得るものではない。右再調査が原告等の主張するように選挙事務に関与していた青森市役所吏員某が候補者三上惣之進等と密議し、同人等の議を容れて行われたものであつて、その際投票の抜取り、不正投票の混入、投票の改ざん等の不正行為の行われたことはこれを認めるに足る証拠は全然ないのみならず、前掲各証人の証言によれば、再調査前に開票立会人三名の外多数の者の環視の下に行われたのであつて、右のような不正行為の介在し得る余地のなかつたことを認めるに十分である。

尤も投票の検証の結果によれば、

1、前記候補者別得票表には、一番樋口昌一の得票数〇と記載してあるのに有効投票中に同候補者の得票とみられるものが九票あり、

2、開票録には、無効投票百四十四と記載しあるが、無効投票中に、入場券六枚、「ザラ紙の小片」一枚、「原紙の白紙」(縦約七糎横約五、五糎)一枚が存し、これをその他の無効投票とされたものに加えると合計百四十六票となり、しかも無効投票中の入場券によるもの六枚のうち五枚には、いずれも受付係、名簿対照係、交付係の各認印があり、

3、その他得票に添付してある決定票に立会人の認印のないもの、或は決定票に記載してある票数と実際の票数と一致しないものがある。

第六開票区における投票の調査集計等は、杜撰粗漏であつたことが認められるが、しかし再調査の結果開票録及び得票数表の修正せられた点は、前認定の箇所だけであつて、その他は再調査前のままであることは、前に認定したとおりであるからして、右のような杜撰粗漏の点は、再調査前の事柄に属し、再調査とは無関係であるといわざるを得ない。このことは、証人小山内常雄の証言によつて認められる。本件第六開票区は地域が広く、しかも、選挙人の大部分は労働者階級で、食事休みまたは夕刻の投票締切り間際は、非常に混雑したこと、また開票場所である長島小学校は電燈の照明が暗く、鉛筆で記載された投票はよく見ないと判らない程度の明るさであつたこと、開票が夜を徹して行われたため関係者が非常に疲労していたこと、等を考え合せても、容易に推測し得るところである。

以上説明のとおりであるから、被告委員会のした前記裁決は結局正当であつて、これが取消及び、本件選挙の無効宣言を求める原告等の本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 猪瀬一郎 石井義彦)

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